前回の投稿で述べた典型的視神経炎の以下の3つの臨床的特徴を考慮することで視神経炎の診断を比較的容易に進めることができます。
・視神経炎では眼球運動痛を含む眼痛・眼窩痛がみられる。北米では約90%、本邦では56%の症例にみられた。
・視神経炎では乳頭腫脹がみられることがある(乳頭炎型)。北米では約35%、本邦では50%の症例にみられた。
・視神経炎では数日から2週程度で視力低下が徐々に進行する。その後、無治療でも3週以内に80%の症例で改善が始まる。ステロイドパルス療法は改善までの期間を短縮する。
(Arch Ophthalmol 1991;109:1673-1678, Jpn J Ophthalmol 1999;43:127-132)
片側性の視力低下があり、乳頭腫脹がある、もしくは乳頭腫脹はないが眼球に異常所見がみられず視神経炎を含む視神経疾患が疑われる症例では、まずは問診が重要になります。特に視力低下の経過と眼球運動痛を含む眼痛・眼窩痛の有無を問診で聴取することが重要で、急性から亜急性で進行性の視力低下があり眼球運動痛がある症例では典型的視神経炎が疑わしくなります。数か月も前から視力低下が進行していているような症例は、少なくとも典型的視神経炎とは言えないということができます。
問診に続いては、swinging flashlight testによるrelative afferent pupillary defect (RAPD)の有無の評価も非常に重要です。片側の視神経疾患では患側眼に光源を移動させると患側瞳孔の散大がみられます。Swinging flashlight testのコツは、半暗室で行う・光源の移動は2-3秒ごと・遠見視標を注視させる(近見反応を混入させないため)、です。Swinging flashlight testによるRAPDの有無の評価は直接対光反射の差を検出していると言い換えることができます。
私は視神経炎の診断にはMRIが最重要であると考えています。禁忌がない限りは造影MRIを撮像します。臨床所見から視神経炎と診断された症例のうち、冠状断脂肪抑制造影T1強調画像では97%に造影効果としての視神経の高信号、STIR画像では84%に視神経の高信号がみられたとする報告があり(Ophthalmology 2002;109:1679-1684)、造影MRIの方がより感度が高いです。視神経の造影効果は放射線視神経症や真菌・悪性腫瘍の視神経への浸潤などでもみられますが、これらの疾患がまれであることを考慮すると、視神経の造影効果は比較的視神経に特異的な所見であると言えると思います。
視神経炎(特に典型的視神経炎)の診断を進める上で私が重要と考えているポイントは以下の3つです。
・問診が重要です。急性から亜急性で進行性の視力低下があり、眼球運動痛があれば典型的視神経炎を疑います。
・RAPDの評価も重要です。片側の視神経疾患では患側眼に光源を移動させると瞳孔散大がみられます。
・造影MRIは最重要です。視神経炎では造影効果としての視神経の高信号がみられます。
「視神経炎と診断したら、どの時点で脳神経内科医に相談するか」で視神経炎の最新の分類が記載されている論文として取り上げた2022年のPetzold A, et al. による論文(Lance Neurol 2022;21:1120-1134)には、視神経炎の診断基準も記載されています。ここまで私がお伝えしてきたように、片側性の視神経炎が疑われる症例に対して問診を行い急性から亜急性で進行性の視力低下と眼球運動痛を聴取し、swinging flashlight testでRAPD陽性を確認し、造影MRIで視神経の造影効果がみられたら、Petzold A, et al.が提唱する診断基準の臨床所見Aと検査所見Bを満たし、視神経炎の診断は確定します(厳密に診断基準を満たすにはコントラスト感度および色覚異常を有する必要がありますが)。
「視神経炎と診断したら、どの時点で脳神経内科医に相談するか」で述べましたが、視神経炎を診断するためのMRIでMSを示唆する脳病巣がないかも探索し、脳病巣があれば脳神経内科医に相談していますし、視神経炎診断時にはアクアポリン4抗体を測定し、陽性ならば脳神経内科医に相談しています。

視神経炎をどのように診断するか ②

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