最近はMS/NMOsd/MOGad中心の医療に絞った診療を行っています。 

<h2>Natalizumab-associated PML</h2>
 
進行性多層性白質脳症（PML）におけるレビューです。主なポイントを下記にまとめました。
1） JCウイルス（JCV）感染はおそらく小児から若年成人期に主に経口経由で、最近では吸入でも感染が成立するとされるが、経年で感染率が緩徐に増加する、感染症としては奇妙な現象を示す。
2） PMLを引き起こすJCV変異株（JCV-PML genetic variants）の多くはVP1領域に点変異を有する。ウイルスカプシド上のVP1タンパクの構造的変異によってウイルス結合能や細胞指向性が変化し、ウイルス中和が阻害され、脳細胞の感染を促進させる可能性がある。変異が中枢神経外なのか、内なのかの議論に決着は付いていない。健康人の20-30%では尿にJCVを排出するが、腎に持続感染しているJCVは免疫系からの攻撃を受けず排除されないが(免疫逃避)、oligodendrocyteに感染した場合、PML発症原因を排除できれば(たとえばナタリズマブを中止するとか)MS患者のリンパ球はJCV変異株を攻撃排除できる能力を有する。
因みに以前の国内NTZ-PMLガイドラインでは、初回のCSFでのJCVのPCRが陰性だった場合は、後日、再検するように記載されていたが、最新版では削除された。PMLを疑ったらNTZを中止するはずで、薬剤血中濃度が低下することで、脳内にリンパ球が侵入し、脳内のPML病変でのウイルス量が低下することで、CSFでのJCVコピー数が低下して、より検出しにくくなることが予想される。逆に、IRISを起こして組織が崩壊するとCSF中ウイルス量が多くなるが、それほどの量が元々あればIRISを起こさなくとも検出できるはず、とNIHからのデータを見ていて個人的には思いました。
疑ったら早期に腰椎穿刺を行い、提出まで時間を要するようなら検体は凍結保存しておく。JCVは丈夫で、CSF中ではvirionとして浮遊しているので沈渣にする必要もない。40 copies/mL以下が予想される場合は、NIH並の高感度測定(後述)ができる国立感染研に依頼する。
3） 多発性硬化症（MS）におけるナタリズマブ関連PML（NTZ-PML）では初期のMRIで周囲に浮腫を伴い、造影効果を有する炎症性病変を認める。免疫再構築症候群（IRIS）に伴うPML（PML-IRIS）も報告され、NTZの中止やNTZ除去のための血漿交換(PLEX)などでPML症状の増悪を認める。もはやNTZ血中濃度を下げる目的でPLEXを行うことはなくなったが、PLEXを行わなくともIRISは出現しうる。生体にとって都合の悪い現象をIRISと呼ぶが、免疫系による健康的な抗ウイルス作用と連続性があるため、IRIS自体の定義はない。早期に疑ってNTZを中止すれば、多くは1年以内にCSFからJCVは消失するので、PML型JCVに対してもMS患者のリンパ球は時間はかかっても排除できる能力を有している。診断が遅れて、CSF中のviral loadが数千copies/mLと多いと、クリアランスに1年以上要したり、生命予後が悪い。
PMLとMSの脱髄病変が同時に出現することはない。PML発症後、NTZ中止後でもMS再発リスクは激減するので、再発予防治療はNTZ投与患者でもコパキソン程度で充分にコントロールできる。
4） MRIや病理学的な明確な定義がなく、PML自体でも脳の炎症は持続することから、PML-IRISの診断は慎重に行うべきであり、著明で臨床的に重要な中枢神経系の炎症状態にのみ使用すべきである。再発と間違ってステロイドパルスを行うと、JCVへの免疫応答を抑制し、ウイルスのクリアランスに悪影響する。
5） AANのPML診断基準では、髄液中10 copies/mL検出できる超高感度assayの感度は95%以上としている。
6） PMLでは髄液中の抗JCV IgG抗体の上昇を認めており、髄腔内での産生も示唆されている。血液脳関門能を考慮する髄液JCV抗体インデックスを用いることでPML診断に有用なツールとなりうるかもしれない。
Neurology, October 2023
<a href="https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37487750/">https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37487750/</a>
short summary：
JCウイルスは成人において無症状の潜在性又は持続的感染を確立するが、免疫抑制状態の成人では進行性多層性白質脳症（PML）を筆頭に症候性の脳炎を引き起こすことが知られている。多発性硬化症の疾患修飾薬（DMD）などの選択的免疫抑制治療の有害事象として近年注目されている。本レビューでは、PMLの臨床像、亜型、病因と診断アプローチについて検討し、JCVを標的とした介入、早期診断とJCVに特異的な細胞免疫の回復に基づく治療戦略に触れる。また、診断や治療反応性、予防や今後の臨床試験における重要な役割となるバイオマーカーについても検討する。
 
追記します。(2024年3月21日)
総説を一つ発見(J Neurovirol 2023;29:524-37)。昨年、Temple大の基礎の研究者とPenn大Neurologistの共著によるreviewが出ています。前半は直径40 nmのJCVについて詳細に述べられており、ちょっと臨床には不要な情報満載なのでスキップしても構わないでしょうが、そこも含めて･･･
1). 野生株とも言えるarchetypeとPML患者から分離されるprototype JCVの違いは、前者のnon-coding control regions (NCCR) 部分に後者では変異が起きていること。周知のように、一般集団では小児期はJCV感染を物語るIgG抗体は14%程度ですが、加齢につれて経口感染により感染しますが無症状で、抗体保有率は増加して、高齢者では86%にまで増加。健康人の20-30%では尿中にウイルスを排出します。東大医科研泌尿器科の余郷先生らは、ゲノムの変異や濃度変化なく、長期間、同一人物の体の中でarchetype virusが維持されることが判明。これがおそらく一般集団での経口感染の元になっているのでしょう。COVID-19の初期に、下水中のウイルス量を測定することでその地域のウイルス拡大を疫学的に推測した国内外の研究が報道されましたが、この方法は丈夫なJCVでそもそも報告されました(JCVが最初か否かは不明)。
2). HIVのような免疫抑制状態では、(この総説では)CNS外でprototype JCVに変異した後にCNSへ血行性にもB細胞に感染した状態でもBBBを超える､と説明。ゆえに、archetypeだけでなく、prototype JCVもPMLだけでなく、ノンーPML患者でもCNS外で見出された､という報告を3編引用しています(J Virol 1992;66:5726-34; J Neurovirol 2003;9:567-76; J Virol 2010;84:9200-9)。
3). 免疫系がJCV増殖を急に許してしまう機序は不明。さまざまな免疫抑制機序がウイルスの再活性化を許してしまう､と考えられています。
4). この総説の共著者であるDr Bergerのデータも引用されていて、こんな嫌なことも紹介されています。A 2013 study found 37% of patients with multiple sclerosis who tested negative anti-JCV antibodies were positive for JCV viruria; this high false negative rate suggests a significant underestimation of JCV prevalence in the general population (Berger et al. Neurology 2013;80:1430-8; Ann Neurol 74:84-90).
5). JCVを抑制する機序の基本はJCV特異的細胞傷害性T細胞。JCV-IgGの中に中和抗体が存在している可能性はゼロではない、と。でも逆にpolyclonalなので、JCV indexが高いほうがPML riskが高いこととは、矛盾しません。薬物として分離できる可能性はあるかもしれません。PML in MS patients用ではなくとも・・・

進行性多巣性白質脳症（PML）のレビュー

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