私は産婦人科医で、産婦人科領域のサブスペシャリティーは、「女性医学」です。その中で、女性の一次性頭痛（片頭痛、緊張型頭痛）への関心が高まり、その診療にも約20年携わっております。この度、縁あって会員登録をさせて頂くことになりました。産婦人科医から見た女性の頭痛に関する情報提供が出来ればと考えています。


皆様、こんにちは。牧田産婦人科医院の牧田和也です。産婦人科領域で行われる「女性ホルモン療法」についてのお話の3回目となりますが、今回は意外と話題に昇らないゴナドトロピン放出ホルモン（GnRH）アゴニスト・アンタゴ二スト剤やゴナドトロピン製剤の使用と頭痛（片頭痛）との関係についてお話出来ればと思います。これまで片頭痛と女性ホルモンの関連と言えば、基本的には低用量ピル・LEP剤あるいはHRTで使用されるエストロゲン剤・黄体ホルモン剤・ならびにその合剤に関するお話がほとんどだと思います。しかしながら、月経周期におけるエストロゲン及び黄体ホルモンの分泌機能に影響を及ぼすという観点から言えば、上記のようなGnRH関連製剤やゴナドトロピン製剤の使用が、特に片頭痛患者さんに及ぼす影響は少なからずあるとは思います。
⑴ &nbsp;GnRHアゴニスト・アンタゴ二スト剤の使用と片頭痛への影響
　私のこれまでの診療経験から申し上げると、GnRHアゴニスト・アンタゴ二スト剤使用による片頭痛患者さんへの影響については、増悪例が多いとも改善例が多いとも言えません。そもそもこれまでに、記憶に残るような症例に遭遇していないのが実情です。［6-1］の項で申し上げたように、これらの製剤は、人工的に閉経に近いホルモン環境を作る（偽閉経療法）ため、その副作用としてエストロゲン低下によるいわゆる更年期症状が出現する割合が高くなるのは事実です。また、これも前の項でお話した通り、片頭痛自体は、閉経後には多くは軽減すると考えられているため、これらの治療により、片頭痛が一時的にしろ軽減する症例が多いため、のぼせ・ほてりなどの更年期症状の訴えは多いですが、片頭痛に関する訴えが少ないのはそのためかもしれません。
　ただし、私が行った共同研究の結果から、閉経後の方でも約4割の症例で発作頻度が増加し、また約3割弱で重症化もしていましたので、必ずしも偽閉経療法を行えば、片頭痛は軽減するとは言い切れません。そのことを示唆する興味ある症例を、私の懇意にしている婦人科の先生が教えてくれました。それは、前兆のある片頭痛の患者さんが、GnRHアンタゴニストの内服薬であるレルミナⓇから黄体ホルモン製剤であるジェノゲストⓇに切り替えたタイミングで、片頭痛が悪化したそうです。しかもレルミナⓇの服用前にジェノゲストⓇを服用していた時には、片頭痛の状況に大きな変化はなかったとのことです。
　この症例について解説しますと、偽閉経療法は、子宮内膜症や子宮筋腫による強度の月経痛や月経過多に悩まされている患者さんには効果的ですが、エストロゲン低下による影響、特に長期間の使用による骨密度への影響を考慮して、保険診療上は最大6ヵ月で必ず休薬するという約束事になっています。しかしながら、6カ月間治療を行っても、子宮内膜症や子宮筋腫自体の病態が治る訳ではないので、ほとんどの患者さんは月経が発来すると再び月経痛や月経過多に悩まされることになります。そうなれば、再び偽閉経療法を行うことは保険診療上も可能ですが、繰り返しエストロゲン低下の環境を作ることへのリスクを補う治療として、ジェノゲストⓇの使用が良く行われます。ジェノゲストⓇも、基本的にはエストロゲン・黄体ホルモンの分泌を抑制する方向の薬剤ですが、GnRH関連製剤ほどの抑制力がないため、この薬剤の利点として投与期間の制限が全くないことが挙げられます。ただ逆に抑制力が弱いため、必ずしも月経発来自体を抑制出来ず、かえって不規則な性器出血に悩まさせれる症例もみられます。そのため、GnRH関連製剤でしっかりと卵巣機能を抑制し、6カ月後にジェノゲストⓇに切り替えて、可能であればそれを継続することで月経発来を長期的に止められれば理想なのですが・・・。なかなかそううまく行かない症例も多いです。レルミナⓇからジェノゲストⓇに切り替えたタイミングで片頭痛が悪化した理由としては、レルミナⓇは卵巣機能をしっかり抑制し、エストロゲン分泌をがっちり抑制しているため、この症例には片頭痛に対して良い環境となったと思われますが、ジェノゲストに変更することでエストロゲン値の変動幅がそれなりに大きかったため、片頭痛が悪化したのではと推察します。最初にジェノゲストを使用した時は、エストロゲンの変動幅がそれ程大きくなかったので、片頭痛の悪化まではおこさなかったのではと考えます。
⑵ &nbsp;ゴナドトロピン製剤の使用と片頭痛への影響
　先に述べたように、ゴナドトロピン製剤は、主に不妊治療すなわち生殖医療の分野で使用されています。産婦人科領域において、この生殖医療の分野は、極めて専門性の高い分野であり、私にとっては専門外の分野となります。従いまして個人には、片頭痛を有する患者さんにゴナドトロピン製剤を使用した経験自体が皆無に近いので、これは私自身にもブラックボックスの課題です。が、そのことが新たな私の関心事となりました。
　そこで今夏、私の知り合いの不妊治療/生殖医療を専門としている産婦人科医12名に以下のようなアンケート用紙をお送りして、10名の先生から回答を頂きました。
〜生殖外来に通院されている女性患者における慢性頭痛（片頭痛）に関連したアンケート調査〜
1) 先生のご年代をお教えください。
① 20代　② 30代　③ 40代　④ 50代　⑤ 60代　⑥ 70代以上
2) 先生の臨床経験年数をお教えください（初期研修を含む）。
① 10年以内　② 11-15年　③ 16-20年　④21-25年 ⑤ 26年以上
2) この1年間で、先生の外来診療の中で、患者様から頭痛（片頭痛）の治療等に関連した相談を受けた経験はありますでしょうか？
経験がない　→　アンケート終了
経験がある　→　引き続き以下の質問3）4）へお進み下さい。
3）相談を受けた人数（おおよそで結構です）
① 1人　② 2〜5人　③ 6〜9人　④ 10人以上
4）具体的な相談内容について、下記からご選択頂き、具体的な治療内容・製剤名等もわかればお教え下さい。
① 生殖外来での治療により、片頭痛の悪化があった等に関する相談
　その事例について、ご記憶されている範囲で結構ですので、年齢・影響したと考えられる薬剤名とその使用時期等につきご教示下さい。
② 生殖外来での治療が、片頭痛の治療へ及ぼす影響に関する相談
　その事例について、ご記憶されている範囲で結構ですので、具体的にどのような相談内容であったか、ご教示下さい。
③ 妊娠が成立した時の片頭痛治療薬への対応等に関する相談
　その事例について、ご記憶されている範囲で結構ですので、年齢・片頭痛治療薬名とその使用時期等につきご教示下さい。
④ 上記以外の件（具体的内容）
　以下にその結果をお示しします。
まず年代ですが、50歳代が6名、60歳代が4名でした。臨床経験年数は、全員が26年以上のベテランの先生でした。そして、この1年間に頭痛（片頭痛）の治療等に関連した相談を受けた経験は、ありが6名、なしが4名であり、相談を受けた人数としては、① 1人と回答した方が2名、　② 2〜5人が2名、　③ 6〜9人が0名　④ 10人以上が2名となりました。
　片頭痛が悪化した例が認められたゴナドトロピン製剤としては、FSH剤と記載された先生が2名おられました。それ以外に生殖医療で使用する薬剤として、クロミフェン（排卵誘発剤）やレトロゾール（これはアロマターゼ阻害薬として、閉経後乳癌への適応がありますが、排卵誘発作用があります）を挙げた先生が2名おられました。わずか10名の調査結果ですので、大きな傾向まではつかめませんが、今回アンケートをお送りした先生方は、皆様日々相当数の患者さんの診療に当たっておられますので、その数からしたらかなり少ない印象があります。やはり従来から言われているように、片頭痛の増悪に関わる女性ホルモン剤としては、エストロゲン・黄体ホルモン剤が圧倒的に多いということになるのかなと思います。今後何等かの形で、頭痛専門外来を受診中の患者さんにおける不妊治療に関連したホルモン治療での相談例がどれ位いるのか調査出来ればと考えています。
　次回は、［3−補足］でお話致しましたが、もう一度低用量ピルとLEPについて述べてみたいと思います。

女性の頭痛診療に役立つ産科・婦人科領域基礎知識［6-3］エストロゲン・黄体ホルモン以外のホルモン剤と頭痛

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女性の頭痛診療に役立つ産科・婦人科領域基礎知識 ［6-3］エストロゲン・黄体ホルモン以外のホルモン剤と頭痛

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