地方都市の中核病院でgeneral neurologistとしてcommon disease中心に幅広く診療しております。
特に脳梗塞の病型診断および内科的治療（生活習慣病管理を含む），予防に力を入れております。

<h2>はじめに</h2>
エダラボンは，脳虚血時に発生するフリーラジカルを消去し細胞膜脂質の過酸化を抑制する脳保護薬として，日本では2001年から脳梗塞の急性期治療薬として使用されております．
脳卒中治療ガイドライン2021において，「脳保護作用が期待されるエダラボンは、急性期脳梗塞患者の治療に用いることは妥当である」（推奨度B　エビデンスレベル中）という記載があり，本邦において脳梗塞急性期に広く用いられている薬剤で，脳梗塞診療をしている方は使用された経験が必ずあると思います．
しかし，日本や中国をはじめとするアジアでは使用されていますが，米国のAHA/ASAガイドラインや欧州の脳卒中ガイドラインには一切記載はありません．
脳梗塞急性期におけるエダラボンの有用性について，現状のエビデンスをまとめてみました．3記事に分けて投稿する予定です．
まずは，本邦発の臨床試験をご紹介します．
<h2>Effect of a novel free radical scavenger, edaravone (MCI-186), on acute brain infarction. Randomized, placebo-controlled, double-blind study at multicenters</h2>
Edaravone Acute Infarction Study Group. Cerebrovasc Dis 2003; 15: 222-229.
2003年に発表された国内第3相試験で，急性期脳梗塞におけるエダラボンの有効性を検証した初めての多施設無作為化プラセボ対照二重盲検試験です．
発症後72時間以内の急性虚血性脳卒中患者252名に対して，エダラボン30mgを1日2回，14日間投与し，主要評価項目として，3ヶ月以内の退院時または発症3ヶ月後のmRSによる機能的転帰を比較しています．
発症72時間以内の急性期脳梗塞患者にエダラボンを14日間投与したところ，退院時または3ヶ月から1年後のmodified Rankin Scale（mRS）が有意に改善したという結果になっております．発症24時間以内に投与開始した患者で最も効果があったため，保険適用は「24時間以内」となっております．
有意差は確かに出ており，エダラボンが急性虚血性脳卒中患者の機能的転帰を改善する可能性を示して，新たな治療選択肢をもたらしたという点で重要な意義を持ちますが，ランダム化や盲検化の方法が記載されていないことや発症前や来院時のmRSに関して言及がない点など研究デザイン上の問題点が指摘されており，エダラボンの効果を過大評価している可能性も否定できません．また，後述するシステマティック・レビューにもこの臨床試験が含まれているため，結果の解釈には注意が必要です．
<h2>Edaravone (radical scavenger) versus sodium ozagrel (antiplatelet agent) in acute noncardioembolic ischemic stroke (EDO trial)</h2>
Shinohara Y, et al. Cerebrovasc Dis 2009; 27:485-492.
発症72時間以内の急性期非心原性脳梗塞患者156名を対象にエダラボンとオザグレルとを比較した日本の多施設共同ランダム化比較試験です（EDO trial）.
3ヶ月後のmRSを主要評価項目とし，mRS 0-1の割合は，エダラボン群で57.1％，オザグレル群で50.3％であり，群間差が6.8％（95％信頼区間＝-3.1～16.7）とオザグレルに対するエダラボンの非劣性が示されたという結果でした．
脳保護薬であるエダラボンと抗血小板薬であるオザグレルといった作用機序の異なる薬剤を比較したユニークな試験ではありますが，サンプルサイズが比較的小さかったり，単盲検デザインによるバイアスの可能性があったり，オザグレルそのものの効果にも疑問が残ることなどから，エダラボンの効果が確実に示されたとは言い難いと考えます．
次に本邦のデータベースからの報告をご紹介します．
<h2>Effect of Edaravone on Neurological Symptoms in Real-World Patients With Acute Ischemic Stroke</h2>
Kobayashi S, et al. Stroke 2019; 50: 1805-1811.
本邦の脳卒中データバンクを用いた多施設後ろ向き観察研究で，実臨床における急性期脳梗塞患者の神経症状に対するエダラボンの効果をサブタイプ別に評価したものです．
発症14日以内に入院した18歳以上の脳梗塞患者61048例を対象に，エダラボン投与群と非投与群を後ろ向きに解析し，入院中の神経症状の変化（ΔNIHSS＝退院時のNIHSSスコア-入院時のNIHSSスコア）を比較・検討しています．
エダラボン投与群ではΔNIHSSはアテローム血栓性脳梗塞 -0.46，心原性 -0.64，ラクナ -0.25と非投与群と比較していずれの病型でも有意差をもってNIHSSの低下を認めておりますが，すべての病型でΔNIHSS&lt;1と臨床的意義は微妙な結果となります．
ただし，アテローム血栓性脳梗塞と心原性脳塞栓症では，入院時NIHSSが15以上の重症者でエダラボンによる神経症候改善効果がやや大きかった（アテローム血栓性脳梗塞 -2.03，心原性脳塞栓症 -1.57）という結果にはなりました．
RCTではないため，因果関係の証明には限界があり，エビデンスレベルとしてはやや下がります．
ここまで，本邦からの報告をご紹介いたしました．
次回は急性期脳梗塞に対するエダラボンの有効性に関するシステマティック・レビューをご紹介させていただく予定です．

フリーラジカルスカベンジャーは急性期脳梗塞の有効な治療法か？〜エダラボンのエビデンスを再考する〜その1

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フリーラジカルスカベンジャーは急性期脳梗塞の有効な治療法か？〜エダラボンのエビデンスを再考する〜 その1

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